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日本をつくり、伝える輪島の職人たち

「輪島塗」に代表される漆器は、海外では「japan」の名で古くから愛されている。つまりここ輪島で生まれ、伝えられているものは、「日本そのもの」。だからこそいま、輪島塗の職人や、漆器を愛する人たちの言葉に耳を傾けてみよう。私たちが誇るべき「日本の美」がここにある。

桐本木工所 桐本 州一さん

輪島塗を使い始めるなら、まずは箸がいいんじゃないかな

輪島塗はね、それなりに値が張るものだから、若い人はびっくりしちゃうかもな。でもお箸くらいなら大丈夫だろう? うちの楕円箸は、口に入れたときのあたりがなめらかで、どんな食事もおいしくする力があるから、一度使うともう離れられないよ。なんせこの私が一本一本、木を削っているんだから、間違いない(笑)。箸の太さを均等にできる理由? それはもう勘だよ。だって50年以上、木工ひとすじ。この作業場でずっと、自分の手で木を触ってきたんだから。

桐本木工所 隅 和範さん

木目は天然のデザイン。きれいな曲線にほれぼれします

木工職人として36年余、真摯に木と向き合ってきましたが、いまだに木の扱いを簡単だと思ったことはありません。たとえば桶を作るとき。なめらかな曲線を生み出すのに必要なのは、長年培った経験と勘です。自然を相手にするわけですから、なかなか設計図通りにはいかないもの。それでもね、木目を見ていると、やっぱりきれいだと感じるんですよ。あれは天然のデザイン。美しさが活きるよう、ひと刷り、ひと刷り、思いをこめてカンナをかけています。

桐本木工所 桐本 成一さん

木のぬくもりを、日用品を通して伝えたい

桐本は木地屋からはじまっている。だから木のぬくもりを感じられる製品をつくることが使命だと、私は考えています。木の持つあたたかみ、力、美しさ、なめらかさをいろいろな製品を通して実感してもらえるとうれしいです。一度、輪島塗のスプーンでアイスクリームを食べてみると分かりますよ。こんなに優しい口当たりのスプーンがあったのかってね。

桐本木工所 谷 治樹さん

仕上げのひと手間に宿る、職人魂

いまはスプーンなど木をくりだして作る“くりもの”を手掛けています。木地づくりは、カンナで削りながら、線と線をつなげていく作業。厚みがまっすぐになって初めて、手にしっくりなじむ木の良さが際立ちます。ほぼ完成だと思うところから、もう一歩さらにカンナを動かし、理想形を極める。この最後のひと手間が、いわゆる職人技。「なんとなくキレイなもの」では意味がありませんから。

桐本木工所 花水 伸一さん

「蒔地」が産む、軽いのに強く、なめらかな漆器

塗りの仕事が多いので、仕事中はほぼ漆と向き合っています。木地に布着せを行い、珪藻土を表面に蒔き、漆を塗り込むのですが、自分のこの作業が、軽いのに強い、輪島塗ならではの漆器を生むと思うと、手に力がこもります。蒔地の仕上がりは、作り手によって表情が少しずつ違います。ボコボコし過ぎないなめらかな表面は、私の技術があってこそじゃないでしょうか(笑)。

桐本木工所 小路 貴穂さん

もっと気軽に使ってほしい。大丈夫、何かあっても修理ができるから

いま作業しているのは、「一辺地漆」をヘラで全体的に塗る、一辺地付けと呼ばれている工程。器が丈夫になるよう、布を貼るのも塗り師の仕事。輪島塗の何がすごいかって、修理ができるところだと思っています。欠けたり、割れたりしてしまったとしても、輪島塗なら、僕たちがまた命を吹き込み、愛してくれている人の手に返すことができる。だから心配せず、もっと気軽にどんどん使って欲しい。

桐本木工所 久保田 啓介さん

漆は優れた天然の塗料。この漆でいつか大きな家具を

漆って温度と湿度で乾くんです。普通の感覚では逆ですから、よく不思議に思われます。行程に手間がかかり、乾くまで時間がかかるし、しかも高価と、なかなか扱いづらい漆ですが、じつは防虫効果や防腐効果もある優れた天然の塗料。先人の職人たちがなぜこの漆に惚れ込んだかがよく分かります。いずれはこの漆で、大きな家具にも挑戦したいですね。

沈金工房 前古 孝人さん

まったく同じ漆器を100個作るのが職人の仕事

沈金とは輪島塗に絵柄をつける技法のひとつ。漆器に刀で絵を彫り、そこに金箔や金粉を入れて絵柄を表現します。彫るということは、つまり失敗の許されない一発勝負。沈金はもう、気が遠くなるほど緻密な作業の連続です。作家さんは1つ作ればいいかもしれませんが、職人はまるで機械みたいに、まったく同じ絵の漆器を100個も1000個も作らなくてはいけないのですから。でもね、最近よく思うんです。この年まで好きな仕事ができて幸せだなって。

上塗り師 坂下 富代夫さん

職人がつないだリレーの最後を担う、責任と喜び

輪島塗が出来上がる最終の工程が上塗りです。漆をむらができないようハケを使って塗り上げ、湿度を保った専用の「塗師風呂」で乾かすまでが仕事。チリがついてはいけませんから、ホコリが立たない特殊な作業場で仕事をしています。つねに緊張が求められる仕事ですが、20年、上塗り師として続けてこられたのは、職人の手をわたってきた輪島塗の、最後を担うという責任感。最後はいつも「喜んでもらえよ」という思いとともに、漆器を送り出しています。

AIUTO! 村井宏治さん

圧倒的に美しい。輪島塗の魅力はその一言に尽きます

輪島の食材が豊富なところに惚れ込んで、広島から店を移しました。輪島塗の漆器を料理の盛り付けに使ったのは、最初はイベントがきっかけだったのですが、その体験が衝撃的で。やっぱり輪島塗って圧倒的に美しいんです。料理の印象まで変える力があると感じ、いまは店でも、お客様に漆器で料理を楽しんでいただいています。魚や肉、野菜、そして発酵食品と、輪島にはまだまだ使ってみたい食材がたくさん。イタリアンシェフとしてこんなにも刺激的な土地はないですよ!

お宿 たなか 田中 孝一さん

能登半島全体が、食材がたっぷりつまった「天然の冷蔵庫」。

「お宿 たなか」は柱、廊下、テーブルなど木のすべてに漆をかけています。ぬくもりがあるのに凛とした品も漂うのは、漆だからできたこと。食事の器は輪島塗、料理はもちろん能登の恵みを使った輪島の伝統料理を作っています。日本一魚の種類が多い海があり、里山は山菜やきのこが豊富な野山があり、輪島はもう「天然の冷蔵庫」なんです。一人でも多くの人に、能登半島の恵みを味わっていただきたい。初めての食体験に、おいしいを超えて、びっくりすると思いますよ。


【WEBサイト】デザイン:weemie design / イラスト:ばしこ。 / 取材・文:前田良子
【動画】撮影:木村周平 / 編集:伊賀圭佑
【制作協力】株式会社クリックネット
【協力】輪島キリモト・桐本木工所AIUTO!お宿たなか